「帰れずの身」
弱りきって寝つかれずに
体ばかりが未熟のまま
耳ばかりが冴えている
憎む声
恨む声
怒る声
愚知る声
罵る声
夢の中にしか居ないからと
笑って私を憎む声は
死体を語る方がまだ優しい
恐ろしくて
まばたきも出来ないで
両手で口を覆って
震える手で押さえ込んで
悲鳴をあげそうな咽に
なんとか泪を流し込ませた
どうすれば殺されずに済む?
そればかりを考えた
だけれどすっかり恐れに弱って
もう今ではあの川のことばかり思ってる
雪枯れぬ町荘厳な女山
うつくしい川古い木の橋
三味線と鼓と赤提灯
それにも劣らぬ緋の長襦袢
生きてるうちに逢えぬなら
いっそあなたが連れて逃げてください
もう望みは持てぬから
いつかのやうに背中にくくって連れて帰って
「帰れずの身」