「姉弟」
あれはいつの頃だったろう
僕が姉を追いかけてた日は
姉は人身御供に任じられて
麻縄で両手戒められて
寝ている僕の記憶を消す接吻からめ
眠る僕を小屋に残して行かれた
けれど誤算の水晶が振って来て
裏山で自裁した精神病者の女の硝子が割れた
硝子は空気の粒子に溶けて
眠る僕に植えられた
醒めろ
二つの硝子片を抱く突然変異のむすめをとうとは
懐かしさにひた走れり
哀しみに縋れり
姉のお着物羽織って跣足で夜道を駈けり
砂は痛く
岩も痛く
土は尽く肌をいじめた
血は出たり
まだまだ土は武器ばかり持てる
肌蒼白く生気引きて姉呼べり
姉のふりかえる香りせり
空気はゆらぎ
僕に道を作りしが
姉はもう居らず
記憶僅かに名残と空に掴んで
僕は胸を貫かれる
誰が刺したか斬ったか射たかは分らずじまい
打たれた時に落ちたのだろう
姉の面影 雨の花
花は僕を立ち留まらせ
水は僕の涙ぬぐったあの両手
姉さま、今何処にいるの?
いつかふるさとのあの雪の町で逢えたらば
おつかいに行けたごほうびの時みたく
僕の頭を何度も撫でてください
「姉弟」