「殺し屋」
満月の逆行に立て居れる
風は口を押さへられて声出でず
黒雲の翳りすら
晴れる闇空には差さないで
白い 白い 満月背中に朱雀大路に立て居れる
そびらの矢籠
ひともと抜けど身まじろぎの搖れも失せ
すり硝子の如き鏑矢つがえ
入水の飛沫のように
未練無く
名残は胸に
放つ
鏑矢は鳴らず
鳴らぬまま何処へか消えた
せめて逃げろと言えたなら
おまえを殺さでいたものを
紅たばしる雨はいやに甘く
古びた林檎の味がする
あの湖に身を投げたって
あの川に沈んだって
この日増に濃くなる林檎の匂いを消しはしない
一縷の音はさよならも無く消えたのに
月は白い
涙も白い
花は紅い
手は紅い
「殺し屋」