「置いてきぼり」
雨に瓦はしたたって
ささくれた木箱は家よりはるかに小さく
窓も無ければ屋根も無い
木箱は
死んだ金魚のやうに
ぽっかり口開けて
空しかない空を見る
黒い穴には
獣の羽
あるいは牙
あるいは爪 散らばりて
心臓の鼓動、音消して動く気配漂ふ
然れど見慣れたる獣にはあらず
外来の獣でも無ければ
新種でも無ければ
人々は扱いかねて
木箱に寄りもせず
あゝ此町に快晴は無い
晴れていてもそれはペンキの絵で
神経侵す匂いばかり濃ゆくなる
あゝ此町に徒花の如きみぞればかり降るよ
積もっても積もっても重なれない
すぐに雨水となる哀しいみぞれよ
「置いてきぼり」