「置いてきぼり」

 雨に瓦はしたたって
 ささくれた木箱は家よりはるかに小さく
 窓も無ければ屋根も無い
 木箱は
 死んだ金魚のやうに
 ぽっかり口開けて
 空しかない空を見る
 黒い穴には
 獣の羽
 あるいは牙
 あるいは爪 散らばりて
 心臓の鼓動、音消して動く気配漂ふ
 然れど見慣れたる獣にはあらず
 外来の獣でも無ければ
 新種でも無ければ
 人々は扱いかねて
 木箱に寄りもせず

 あゝ此町に快晴は無い
 晴れていてもそれはペンキの絵で
 神経侵す匂いばかり濃ゆくなる
 あゝ此町に徒花の如きみぞればかり降るよ
 積もっても積もっても重なれない
 すぐに雨水となる哀しいみぞれよ

「置いてきぼり」

「置いてきぼり」

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-03-27

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