「深夜」
燈をおとした料理場
アルコヲルラムプ
摺附木よりは大きく
摺附木よりか細く
青く 光は哀しく
アルコヲルラムプは燃えり
番頭の片手にのせられ
番頭の顔は見えず沈黙に隠れる
彼は料理場に留まるを
彼の手のアルコヲルラムプは搖らげり
炎はゆらぐ
風は無くとも
我身の軽さと、
重さに搖れる…止められないで
番頭の顔はまだ見えぬ
口元の戸惑も
目玉に染みるさし迫る冷汗も
白歯の無邪気さも
眉の黒もまだ見えぬ
片手ばかりぼんやり浮いて
鱗のラムプをしかと握れり
「 」
…誰かの声…?
彼は竦みて我身を抱けり
ラムプは落ちたる音嘲笑へり
青い炎は床に散らぼれり
やがて 彼を抱き締めり
「深夜」