「帰路」
雨も晴れ
黄昏も経て日は眠る
眠ったまま反対側
水の半円の搖り籠に寝がへりして
太陽は夢中で光かがやく
うつつの太陽
佇んだまま無言のまま見送る
泥の道を
うつろの洞穴の眼して
獣の去った空洞の眼して
見るものも分らず
歩く
…見送った私の姿の残像が影法師になる…
…ついてくる
帰路に喧騒は無く
焦燥もあらず
喪服のなめらかな家の壁
月があるのに
例え翳っていても消えないものを
家の壁は尽く黒く
雨あがりの道はいつまでもぐにゅぐにゅと
慰みに足をすくって
頭から泥を塗りたくらせている
アスファルトの筈なのに
その下に眠る土ばかり湧き上がって来て…
土は見えないだけ
月も見えないだけ
私の頭と首には月の細い白糸と
腕と脚には土のどす黒い裁縫糸
手離さない銀の鋏で断ち切れば
首切り腕切り足を切り
糸はからみつく抱擁の生身のまま
だるまと心中する
銀の鋏は一度も振られず
もう本来の使い方も忘れさせて
罪人の贖罪のチャアムの如きお守りになった
手に閉じこめて
胸に抱きとめるつめたい刀身
…笑う……
いつか白菊の花束かかえた娘が
私を見たら
どうなってしまうのでしょう
その娘の帰り路は
昔と違わず
いつか出会う
「帰路」