「丑三つどき」
丑三つどき
けぶれた三日月を硝子越しに指でふれる
ピアノ線の我が神経は
脳にはりめぐる蜘蛛の糸
じりじり焼きつけて
羽虫のいらだち
咽をかきむしる爪ももはや無く
気をうしなふ激痛に
つめたい硝子がよく沁みる
丑三つどき
ブランデエ・グラスの青い鈴蘭に水をやる
眠る鈴蘭の口あけて
夢中で咽をくぴりと鳴らしめる
君影草は青い月
朝をこわがる雫が見えた
ブランデエ・グラスに鈴蘭の泪
丑三つどき
濡らした両手そのままに
何でぬぐうかも知らず彷徨う家の中
白い大理石の
床に染みたる水痕の
透みしを赤と見紛うて
生血《》の滴るに胸冷えて
氷の素足ただ青ざめて震う
丑三つどき
足は崩れおちて
のしかかるは空気の重さ
柱時計も罅割れて
搖らぎもせぬ鉄の柱
押しつぶされた顔の先
霞む両眼の白い先には彼岸提灯
くるくる回る青い燈火
なつかしい光ばかりだ…
涙のうちに息絶える
「丑三つどき」