「海と空」
碧い海
底はつめたく
砂のような泡がすだく
泡はひしめきて
かたち成す
山百合の花
泡の花に
瞳は無く
唇も無く
心臓の全身で
海のふかくに座主
眠るは儚い夢の中
水を貫いた頭上には
行方の測り知れぬえいてるを染めたあおが広がると言ふ
この深海より明いか
光を吸って
魚の代りに鳥が歌って泳ぐらしい
名前は何と言うのだろ
いつから此世に居るのだろう
山百合の花は水の底
十字架のように眠り続けて
何処にか居る双子の生を祈っている
もはや泪も海となった
草も魚もたくさん死んだ
それでも泡の白花は全身で祈る
心臓だけの全身で
有史以前の記憶をよすがに
まだ見ぬ双子の生きるを願って…
「海と空」