「春宵」
雲を掴みて墮ちる者
雲すら掴み損ねて墮ちる者
あゝ何方にも白い羽があったものを
太陽に魅せられたと言うでもなし
気まぐれに遊んで居たでもなし
ただひとり
春宵のかほりに搖られて眼覚めただけで
春宵は雪どけの川
春宵は白い大地
春宵は青いしろめと黄色なくろめ
春宵はあいびい絡まりし肌
春宵は血まぶれの簪
春宵は幾重にも積まれた身体
干涸らびたセメントの白目は
息絶えても口を疑惑に金魚の口
春宵は一番星の夜
頭には星一点を
座る土には
墓、墓、墓を
「春宵」