「いつかの街」

 あのうつくしい街へ帰りたい…
 春のあわ雪
 蛍の涙
 血潮(ちしほ)滴る彼岸花は
 雪をかむりて

 本能のままに舞う
 花と草木と獣たちの山
 底澄んだ深い青藍の川
 赤い椿の花びら溶かした櫺子にさした
 白と碧の絞りの綿飴花…

 鳥は淡く虹に輝き
 震える手を抱きしめ
 曳いてくださった優しいあの瞳
 なつかしい…

 あゝ今すぐにでも帰りたい
 生れる前に生きてた街
 胎の記憶より古い思ひ出
 迎いに来て
 水色の(ぎょく)結びつけた(しろがね)の糸の腕輪形見に
 暗い水の中で彷徨う身は…

「いつかの街」

「いつかの街」

  • 自由詩
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-02-06

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