「ふくら雀」

 羽は雫を弾いて
 草の根に…沁み込めり

 草むらには落葉埋(うず)まり
 枯葉が眠り
 渠等の寝息に花はつむりを靡かせる
 雀は桜の枝にとまり
 小さな(やしろ)の青銅にとまり
 夜空を顔に(くま)どって
 白いは月か太陽か
 雪の名残りのふくら頬

 霧雨はおとないて
 ひたひたと
 風の腰元連れて来る
 袂に腕を搔込んだ
 雀を探す雨の君
 白い桜を黒髪に活けて
 裳裾に塵の乱れ無く
 水晶の瞳
 花冠で眉まで隠す
 唇は南天の実紅に染めた
 雨の君は雀を探す
 「愛し妹、何処に居る?
  雀のあの子は何処に居る?」
 風腰元が疾く退きなさいと案じても
 雨の君は湖をうかがい木を仰ぎ
 神の祠にかしづきて
 寂しがりやの妹の無事なるをただ願う
 のんきなふくら雀はまだ見ぬ姉を恋ながら
 雨の空に飛び出して
 あまりに弱った悲しい(まなこ)で土を歩く

 あじさいの、色は紫濃ゆい青。

「ふくら雀」

「ふくら雀」

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-01-23

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted