「空気少女」

 にわか雨に歩きて
 少女は片脚を摺りたり
 赤枯れしたる左脚が地をこする
 右手を支うる泪の杖
 氷のリボンで固く結んだ

 にわか雨は直ぐには止まぬ
 夕立なれば
 凍てし月の朧にくずるるに
 リボンの固き結び目を解けようものを
 にわか雨は止まず
 わがままに月をかき抱き
 少女はまだ濡れている
 少女は一人ならず
 彼方にも此方にも彷徨い
 ゆっくりと歩いて居る
 娘の少女もあり
 男の少女もあり
 老婆翁の少女も歩く
 フレアスカアトの横顔にも映れば
 スーツの折目に白い細腕
 筋ばった手の甲の血管に長い眦青白く
 臨終の微笑みはいつかの記憶

 少女は一人残らず雨に歩きて
 人々の肺を満たす
 手のひらを見つむれば
 指から零れる少女花束

「空気少女」

「空気少女」

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-01-20

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