「空気少女」
にわか雨に歩きて
少女は片脚を摺りたり
赤枯れしたる左脚が地をこする
右手を支うる泪の杖
氷のリボンで固く結んだ
にわか雨は直ぐには止まぬ
夕立なれば
凍てし月の朧にくずるるに
リボンの固き結び目を解けようものを
にわか雨は止まず
わがままに月をかき抱き
少女はまだ濡れている
少女は一人ならず
彼方にも此方にも彷徨い
ゆっくりと歩いて居る
娘の少女もあり
男の少女もあり
老婆翁の少女も歩く
フレアスカアトの横顔にも映れば
スーツの折目に白い細腕
筋ばった手の甲の血管に長い眦青白く
臨終の微笑みはいつかの記憶
少女は一人残らず雨に歩きて
人々の肺を満たす
手のひらを見つむれば
指から零れる少女花束
「空気少女」