「三月」
時計は止まりぬ
電池を換えど
人に縋れど
秒針一度とて震えない
刻むことも無い
狂うことも無い
動かぬが故に
時計は冷たく
氷のごとく
内なる微かな体温の
微細の文字盤のぬくもりも
止まってしまった
血は流れず
音もせぬ
有余る両手
表も
裏も
無力なる
風未だ冷たき三月の
梅は雨に打ち稍れて
桜もまだ笑えない
風が冷たい 雪の中
うす汚れ被りたる 白雪の中
薄色の 水たまり
花びらほどもなき 水たまり
大地の涙
哀しみの傷痕
されども乾かぬ硝子玉の
映すは…青い空
涙の色なり
雨の色なり
地に生きるものの涙なり
然れど
白い太陽を抱きしめる
果無い大空なり
「三月」