「哀しい手」

 誰かの手が彷徨う
 哀しい手だ
 小鳥の死骸を(いだ)
 土に生える淡い花を撫で
 愛しき方の頬に触れれば
 冷えた手を爛らせながら何かを殺す
 陽の恵みを加護としつつも
 時には恐ろしくて震え止まらぬ
 気高く
 美しい
 哀しい手だ

 誰かの手が泣いている
 寂しい手だ
 寒空の川に映る空を見つめて
 ひとり涙を零す寂しい手
 その手からは夜な夜な螢が咲き飛ばう
 雪の面影
 月の映し身
 ほのかに白く、山吹に
 灯りてはたたく螢火淡く
 一つ
 また、一つ
 ふらふらと覚束無げに飛んでいく
 山を越えて鷹に守られながら飛んでいけ
 あの哀しい手のもとへ
 あの哀しい手のもとへ
 夜の町は静かに更けゆく…

「哀しい手」

「哀しい手」

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-11-28

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted