「刹那」
深い絶望は
僕をまどろみへと誘う
せめてこの臆病な両眼が
ミシン針で留められる前に
もう一度
胡蝶に逢いたい
その羽で
その口で
その触角で
白菊の蜜を吸いとる一羽の胡蝶
蜜をひと息に呑み干せば
黒曜石の瞳潤い
長い睫毛は露を抱く
蜜だけでなくいっそ根元まで喰い尽くせ
優しい胡蝶の哀しい笑い
僕の敏感な触角が
あなたの心臓の血に触れた
胡蝶は僕と倒れて
ずっと湖に溺れ沈んだ
胡蝶、もう眼を開けなくったっていい
僕の両眼はあなたの傷を見られないから
ふたりでずっと眠っていよう
夢の刹那を空に広げて
藍色の空に漂っていよう
「刹那」