「駈落」

 鏡に映るは仮初の命
 鏡に映るは我が命―
 丑三時の鏡台に座り
 黒々とした獣の横雲が立ち込める
 むらむらと湧き立つ黒雲の背中
 その人を何処へ連行する、
 その人を何処へ連れてゆく
 丑の背中に跨がらせられるあなた
 しとやかなワンピイスの裾が肌けて
 膝元あらわに傷は疼く
 なつかしき万華鏡も
 渺々たる雑草の根に埋れていよう
 聞け、土に伏して泣く呻き声――
 いとしいものと何故肌身をよせて生きられぬ!
 ワンピイスを陰火で燃やして
 ふたつのひと魂は青く、白く燃え咲いた
 大きな羽織をなよ肩に着せて
 自らは寒い浴衣のまま
 男と娘はただ逃げた
 花に守られ落ちゆく先は
 清水の銀鱗ささやき
 紅椿が囲む祠であれ…
 凍える風も樹々の御前では
 すなおなそよ風となろうから

「駈落」

「駈落」

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-11-10

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