「クリスマス・イブ」
白い病院に
白い病室
命の色は哀しい色をしている
その一隅に
髪黒き嫋女ひとり
黒水晶の艶めく髪は長く
うち傾く頭から細きうなじ清い背中を伝いては
膝元をそっと隠すまで
瀧の落つる理によく似たうつくしき黒髪
嫋女のそばに一人の男あり
夫は妻の力無き指を握り
自らの心臓に押しあてる
鼓動よ指先を震わせよ
今一度の力を与えよ
夫は泣いた
ぴくりと指先が正気づいた
濡れる両頬のせめて片側だけでもと
震える指先が水を飲んだ
うつくしき湧水は細い指先から
白っぽくなった爪に絡まり
薬指に白蛇のリボンを結ばせた
火照った体にささやかな…
あなた、あなたと在りし日の声
あれ、雪椿が咲きます、ほら…
いつかふたりで見た花が
濃紅の血潮の輝きが
泡雪のためか、薄くなって白くなりゆく
妻の瞳は閉じたまま
一筋の声と指先だけが空気を搖らし
妻は夫の胸に抱かれた
外には雪が降りやまぬ
聖夜の一日前のこと…
星となって恋しきを照らし給え
「クリスマス・イブ」