「童」

 短く切り揃えられた前髪
 おかっぱ頭の黒糸の髪は
 ほつれて何処にかゆきそうな
 細くあやうげ残したまんま

 着物がよく似合う
 卯月の淡い草を織り込めたのであろう
 袂も裾も帯もかろく
 音かろく跳ねまわる

 童は手に水晶のっけて
 腕へころがし
 また指先へころがし
 羽ばたく真似をすれば
 水晶はひとりでにころころかろん
 滑り落ちる予兆も無しに
 童は水晶を奔らせる

 毬をあげようか
 紅地に水の糸をめぐらせて
 山吹の花のこよりで縫いとめた手毬を
 私の手には余るけれど
 おまえならきっとお気に入りだろう

 空は晴れている
 雲のかすみも無く
 向うの山が望める
 この季節はまた来るだろうか

「童」

「童」

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-10-04

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted