「宿った命」

 毛糸の玉床に転がり居たる
 まっさらな編み棒埃を被りて
 吹き晒しの家屋の内に
 おかしや、教本の一つ寝そべるを
 易しき字面理路整然と並び
 我寒さに耐えず
 おもむろに
 物憂げに
 マフラーを編まんとす

 我の指先は震え
 糸の次なる焦点定まらず
 あちらでもない
 こちらでもない
 糸は何一つ結び目を成せずに
 するり
  するり
   地平線ばかりを望む…

 何の因業か?

 知らぬ…?

 針葉樹林の松の葉に
 ふりかかる泡沫の白雪
 それに愛されることを望んだ
 罪か
 愚かか
 一切の温もりを捨て
 雪にばかり縋って泣いた
 その因業が今
 雨となって現実に
 我に漏れなく塗れに来ている
 風は濡れた衣服を冷やすばかり
 水の鎧は肌を貫き骨をも刺す
 何等が我を温める?

 一部屋隔てた向かうでは
 温もりの中に酸素があり
 そして此方を招くではないか
 ぬくもりを感じれども
 ぬくもりに浸れは出来ぬ
 許されることは無い
 誰に?
 八百万に。

 見上げた星は夜空にうつくしく凍る

「宿った命」

「宿った命」

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-09-29

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