「二つの背中」

 待ってください
  待ってください
 呼ぶ人がいる
 呼ぶ人が追うは背中の人
 背中越しに走馬燈のともしが生んだ影のほのめく
 背中の人は背中でしかない
 たとえ振り向けどまた背中
 振り向けど
 振り向けど…
 背中の人は呼ぶ人に花の実をあげられないで
 呼ぶ人は背中の人に水をやれないまま
 いつまでも互いは背中どうしの熱でぬくもる
 愛とは肯定のみでなし
 互いは互いに泣きながら
 哀しい涙ばかりを落す
 両手で顔を覆って
 情のすき間より伝う雨
 雨はいづれ命を呼ぶと
 さう互いに信じたまま
 二人は虚空に呼掛ける…
 また、今日も

「二つの背中」

「二つの背中」

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-09-28

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted