「冬のはじめ」

 冬のはじめ
 空は色づいた桜の葉を溶いて
 夕暮にさしかかる頃合
 空にはほのかに
 青み帯びた桜の花も混じる
 蒼ざめた頬にも
 ひかえめな紅がさされる
 冬のはじめ

 立ち入ったことの無い
 ひとり旅の旅先を
 胸に好きに絵描き
 烏も黒猫になる
 車も人になる
 傘は野原の花々よ
 降る露は全て白菊の欠片
 赤子の雄叫びも可愛いものよ
 ほらほらメクジラに白い手巾(はんけち)かぶせましょ
 使い込んだ洗い立てのふあふあ手巾をかぶせましょ
 そうして迷路へいざなう胡蝶を追って
 丘の上に座りましょう
 ほら、口笛ぶえで讃美歌…

 わたしの枕は霜を吸っては呑んだ草枕
 旅の道で寝転がる
 仰いで もたれて
 冬のはじめ
 なに
 死にやしない
 冬のはじめに
 眠りから起きるのだから

「冬のはじめ」

「冬のはじめ」

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-09-27

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