「胡蝶」
ひらり
背中は蝶の羽
杜若のひらけたかたち
紫苑にほのめき
山吹の胡粉を水で溶いて
指でなぞったつたない落書点々と染み
揺るる 蝶の羽ひとり
飛翔の勢いの予感は無くて
苔を食む霞の絶えない山奥の湖に
深き水面に風ささらぎ寂しく吹く声
そんな声で、笑う…
雲に戯れる孤月の生みし
青藍の炎の鱗粉が
ちら
ちら
零れる風情瞬いて
「おいで…
おいで…」
呼ぶ声遥か
然れども赤き心胆揺さぶらしむるは何事ぞ
翡翠の両眼我を射抜き
ぽっかり穴に紐を一本するすると貫き通した
首を括るよりは優しく 恐ろしい
錦の織物ねじった帯締め
しっとり器用に指で戯れつつ
我に手紙を書かしめた
あなたは今日も
実在を拒む
「胡蝶」