フリーズ11 戯曲『フロイデントレーネン=最期のシ』

フリーズ11 戯曲『フロイデントレーネン=最期のシ』

プロローグ

最高の人生を作りたかった。
記憶という名の具材はもう、溶け込んで。
ポトフ
ぐちゃぐちゃ
これでいい
手料理。完成しなければ

詩人は明日、死ぬことにした。

1Last supper

      詩人
最後の晩餐はどうしようか。もう迷いはない。明日の日に、エデンの東、遠くへと、全ての命が帰るから。止めるのは愚かだと、連綿と紡がれた歴史が告げるのだ。

仏の手と神の手を
千切って入れたこの鍋を
悪は見えない、心の根
全ての道に薔薇が咲く

今宵、世界終焉前夜
祝福されたこのイブに
フィニスの刻限は放たれる
色即是空も空即是色も

Pattern of the eden
収束するは永遠に
青空晴れて、生きたかった
でも、もう病める心はね

できた料理に華の色
味のしないこの舌でも
想像が愛を運んだ
創造が味を生んだ

腹が膨れて安堵した
きっとこれが最後の晩餐
デザイア・ブレイク
もう食べない

      詩人
だから、私は食べることをやめたのだ。



3Eve原罪

寝ようにも寝れないのだな
この羽は、見えない翼が痛むから
永き人生に疲れ果て
輪廻の果てにここに来た
歓喜に呼ばれてやって来た

そう、わたしたちは、
幸せになるために生まれたのだ

世界が明日終わろうとも、
私だけの世界でも、
終末は近い、この世から
望まぬ牢から去る時だ

私は彼女をここに呼ぶ
聖夜に呼ばれて君は来た

万来の祝宴に
恵まれなかった者たちも
神の祈り、仏の眼
さながらここは万魔殿

[塔の上、詩人の部屋に少女が舞い降りる]

      詩人
やっと来たか。なんと美しい。お前の名前はなんと言う?

      少女

私には名前はまだありません。どうか、お好きなようにお呼びください。

      詩人
そうか。では、その美貌をかの神話に喩えて、ヘレーネと呼ぼう。ヘレーネよ、こちらに来てはくれまいか?

[ヘレーネ、詩人の隣に]

永遠誓ったあの日から
花咲く園に立つ君を
一人で立つ君、探してた
夢は叶って、愛は満ち
さぁ、始めよう、原罪を

      少女
素敵な詩。私のことを思う、あなたの気持ちがわかります。あなたの眼差しも、あなたの息遣いさえ愛おしい。この広い世界で私を選んでくれた人。あなたに全てを捧げます。

全ての命よ還りなさい
私はアニムス、あなたはアニマ
始まりは全
全能よ

神々の霊感を得し日より
この夜夢見て生きてきた
全ての人類、死の間際
迎えに行こう、この言葉

あなたが門を開けたから
世界を越えてやってきた
時流は永久に凍りつき
フリーズ、そして二人だけ

      詩人
私はかねてより決めていたのだ。私の妻となるのは、お前のように賢く、そして優美な者だけだと。正しく、お前は私の最愛の人だ。私の運命の人だ。お前に会うため生まれてきたと、私は確信しているよ。

甘き接吻、犯される罪
世界は7日目を秘密裏に終える
終末の聖夜に、誰も知らない神話が
世界の始まりの音とともに幕を開ける



5永遠はレントより遅く

[晴れ渡った冬の日の朝、ヘレーネは光とともに消えていった]

      詩人
どこにいった!? ヘレーネよ、我が最愛の人よ!

[詩人は自分の部屋中を探し回るが、ヘレーネは見つからない]

      詩人
何故なのだ。世界が終わるのはもう、止められないのか……。

7日目は安息の日
今日は8日でレムニスケート
永遠の始まりは、9という死で
安らかな幕引きとなる

      詩人
そうか、もう終わるのだな。

眠らずに
越えた幾夜を思っては
流れた涙も
凍ってしまえ

      詩人
象牙の塔に籠もってから、もう何年か……。世界の終焉を止めるために学んできたというのに、結果として他でもない私が世界を終わらせてしまうなんてな。

始まりの終わりがやって来る
目覚めよ、全ての霊魂よ
世界霊魂はこの日のために
イデアの海を愛で満たした

時流が強く断絶し
疚しさ引きずるメモリアを
今解き放て、再来の時
晴れた天球、全能の空

      詩人
私は永遠を知った。『時流などない』と、私は机上の最後のノートにそう記して閉じた。恐らく、私の世界が眩んでも、否応なしに世界は続く。続いた世界にこの言葉、標となって灯してくれよ。



7涅槃/ニルヴァーナ

      詩人
火が消えるように、抱いた欲が消えていく。全ての煩悩が消え、冴える脳が抱くこのクオリアはなんと美しいか! 世界平和は、永遠平和は今叶ったのだ!

[詩人は塔の屋根の上に昇る]

Top of the world
この世界は私のものだ
いいや、ちがうなみんなのもの
もう、いいんだ、なにもかも

空を見上げて、雲を僻んで
そして見つける、天上の
楽園に住まう乙女たち
あぁ、ヘレーネよ。愛は今、
全ての罪は赦された!

[詩人は部屋に戻ると、ベッドに横たわる]

      詩人
やっと、眠れるんだな。もう、本当の最期なんだ。最後に君に会えてよかったよ。あぁ、本当に美しかったなぁ。

詩人は永遠の眠りについた
涅槃の火は、穏やかな春風によって消え去った

The end of life is death.
Everything turns to nothing, Vanity.
However, the flower of life bears fruits.
The love of life, the most beautiful sound I've ever heard.

      詩人
愛しています。ありがとう。

9水門にて/別れの詩

もし死ぬのなら、阿寒の雪を見てみたい
もし死ぬのなら、楽園の花を見てみたい
もし死ぬのなら、時の流れを止めてみたい
もし死ぬのなら、世界を平和にしたかった

小笠原諸島の凪いだ渚に、空と色と有明の月
沙羅双樹や菩提樹、金木犀に木蓮の下で
失われた時を求めて、酔った夢に生きてみた
歓喜に呼ばれて目覚めた日
やっと、望まぬ鳥かごから比翼の鳥が飛んでいく

まだ憶えていますか。僕はここだよ。まだ死んでなんかいない。
伽藍洞な宇宙は泣いた。永遠ももう終わるから。
還る場所を、水面に映るその顔を、やっと思い出せたから。

Fin

フリーズ11 戯曲『フロイデントレーネン=最期のシ』

フリーズ11 戯曲『フロイデントレーネン=最期のシ』

凪いだ空の下、詩人は泣いた そんな戯曲

  • 自由詩
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-01-14

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  1. プロローグ
  2. 2