パスワード

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あなたのぱすわーどはしらないのに、わたしはログインした

彼女に会うことになった前日の夜、わたしは自室の暗闇で彼女のパスワードを考える。idは見えるけど、パスワードはその人しか知らない。ふと、彼女の顔を思い浮かべながら、考える。
私があなたのパスワードを知ったらどうするだろう?
ぜんぶ見る。秘密のやりとりも、いいねしたものも、画像も。それで、パスワードが変えられてもいいようにぜんぶスクショする。
それから、彼女のidで私宛にラブレターを贈る。すごく愛に溢れていて文章のそこら中にお花の香りがするの。
私は何も知らない顔で、自分のアカウントに戻って、そのラブレターを読んで、もっと熱烈なラブレターを彼女に返すの。
彼女はそのラブレターに気づいたら、その前に自分が贈っているものに気づく。そうして彼女はこう思うの
「わたしは彼女を愛していたのに、気づかなかったんだわ」
彼女は私に返信する。
「私は気づかなかった。でも、あなたを愛していたのよ」
私たちは結ばれる。

パスワードを知ることは、永遠に不可能です。永遠に不可能だから、わたしは夢を見る。永遠に夢の中にいる。私は目をつぶって夢を見る。

翌日、私は、精一杯のおしゃれをして、彼女との待ち合わせの喫茶店に、彼女が指定した時間の3時間前に入る。私はがくがくふるえている。コーヒーカップから、コーヒーが零れて、なきそうになる。本を開いても目が泳ぐ。
私はスマホを取り出して、彼女のアカウントを見る。彼女は「これからある人と会う。私の信頼している人。」と呟いている。私は怖くなって、お手洗いに駆け込んで、化粧がちゃんと出来ているかどうか、何度も鏡で確かめる。
3時間も早く来た自分を呪った。でも、待てなかった。私が彼女に会うなんて、2年前の自分に聞いたら気を失ってしまうだろう。だから、私は朝4時に起きて、身支度を済ませ、家を飛び出したのだ。
私は結局、3時間を、その暗い喫茶店のガラスに彼女の姿が見えないか目を凝らしたり、自分の姿を確かめにトイレに入ったり、忙しく同じことを繰り返して、過ごした。
彼女は時間の5分前に来た。私は彼女の姿が目に入った途端、心が洗われたようなきがした。
彼女が艷めいた唇を開く。頬はほんのり赤く染まって、彼女の声が鼓膜に届く。
「眠水さん?」
私は声が出ない。
彼女がじっと私を見つめる。
私は小さく頷く。
「会えてよかった」
会えてよかった?会えてよかった?会えてよかった、会えてよかった、会えてよかった、会えてよかった、会えてよかった、わたしのあたまはわかんなくなる。
私は口を開こうとするけど声が出ない。じっと彼女を見つめる。彼女の目はしっかりと力を持っている。
私は彼女の目の中に、パスワード🟰鍵がないか探す。でも、ない。彼女は神秘的な瞳をしている。ぱすわーどがないのはとうぜんのこと
私は
あなたの
手を
とって
くちづけする
彼女は驚いた顔をする。私も自分のした事に驚いてしまう。驚き、彼女の驚きは、私にとって神秘の内部を見たも当然だった。
「……眠水さん?」
私は手を伸ばして、彼女の頬に手を当てる。冷たい。指先をそっと動かして、艶めいた唇に指をあてる。彼女の唇がそっと開いて、わたしの指を唇でつつむ。
私はあなたのパスワードを知らないけど、あなたにログインした。

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  • 小説
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  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-09-30

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