狂気処理屋。
どぶ臭い路地裏で林檎を食べていた男が突然、地面を転げ回った。
「駄目だぁ……俺はぁ、駄目だぁ……」
すると今度は、頭を抱えて震え出した。
そこへ2人の男女がやって来た。獏のお面を被った男と、ツインテールの少女。
ツインテールの少女が一歩前に出た。
「私を見て」
彼女のその一言で、男は何かを感じ取ったのか素直に顔を上げた。
ツインテールの少女は、男の目から一切目を離さず、口を開く。
「私が手を一回叩くと、あなたは静を手に入れる」
男が目を見開いた。
「では」
ぱぁんっ!
彼女の手と手が打ち合わさった音が路地裏に響く。
男は涎をだらだら流したまま、動かなくなった。
ツインテールの少女は獏のお面の男を睨む。
獏のお面の男は溜め息を吐き、面倒臭そうに静かになった男の前に立った。
「狂気は起きながらにして見る悪夢です。悪夢は獏が食べるのです。獏はあなたを正気に戻す。それだけの、ことなのです」
獏のお面の男は右手で動物の顔のようなものを作った。人差し指と小指を立てて、中指と薬指を横に並べ、下に親指をくっ付ける。
「頂きます」
中指と薬指、親指で出来た口を開け、
「ばくっ!」
一瞬で閉じた。
男の目から狂気が消え、食べかけの林檎だけがこの街の闇を静かに物語っていた。
狂気処理屋。