アイスピックの少年。

アイスピックの少年。

 ひゅん、ひゅん、がっ、がっ、がっ。
 どす黒い曇り空で薄暗くなった路地裏から、不気味な音が聞こえてきた。
 ひゅん、ひゅおん、がっがっがっ。
 風を切るような音とと、固い物に固い何かを打ち付ける音。どんどん激しくなっていく。
 路地裏を進む。
 音の出どころに近付くにつれて、紫色の蛙の数が増えていっているような気がした。
 ひゅうおんっ、ひゅおんっ、がっ、がっ、がっ!
 目付きの悪い少年がアイスピックを振るっていた。
 彼の足元には大量の蛙がいた。少年に踏み潰されたのか、ぺしゃんこになって、肉片と臓器と体液が泥濘んだ地面と混ざり合っていた。
「見るな、見るな見るな見るなぁっ!」
 僕に向かって叫んでいるのかと思った。見せ物じゃないよって意味で。でもどうやら、違うようだった。
 アイスピックで空を切る先に、アイスピックで壁を突く先にいる何かに向かって、叫んでいるみたいだった。
「潰してやる! 潰してやるからなぁっ!」
 半狂乱状態のアイスピックの少年。彼の足元には、食べかけの林檎が転がっていた。
 ぞっとするぐらい、赤く熟れた林檎だった。

アイスピックの少年。

アイスピックの少年。

  • 小説
  • 掌編
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-02-08

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