POPS
POPS
冷めたコップを二つ置いていて、どっちのコップにも汚れが見えなくて、私や君の手によって綺麗に洗われた後なのか、それとも今から使うために食器棚から取り出して、仲良さそうに見えるように、テーブルの上に、私が並べたところなのか。
その衣服が、見たことがないものとしてベランダに干されていれば、君が新しく買ったものと理解して、いつもの服を一緒に干すためにつっかけを履く。または私が買ったものなのに一度も袖を通していないそれ、それを君が見つけて勝手に借りた、そしてそれを着てから外出して、君はここに帰って来たと想像する。同じぐらいの背丈の二人だから、不思議はない。服の趣味も似ている、だから、無理なんてない。
この言い分が部屋に向かって吹く、長い風ととともにカーテンを膨らませて届き、少し遅れる君の心配りが、戻って来ないカーテンの向こうで行われているという、気配として感じられて。私は、衣服たちが干されたベランダに立って、作られたみたいにゆっくり進む航空機の姿と速度を、目で追う。私の意思を介さずに拍動する、この胸の辺り。
瞬きで細かく刻む、編集。
前後にあったはずのエピソードを、内と外にと折り曲げて、意図する私たちが取り上げた一場面と、色とりどりのマジックペン。油性だから、直せないから、慎重になる。
古い機械の、いつ壊れても可笑しくない、キュルキュルとした巻き戻しがもたらすものを、埃を払い、私が見つけて、提案する。それに君が同意して始まった、深夜、午前の再生。見つけ出すために、静かに散らかした部屋、その真ん中にも片隅にも、光と音。君と私でレンズを向ける、その役割を代える度にブレる真四角な、融通の効かない、譲らない、視線。そこには、恋を表す肯定と、傷を見せない努力が。
嗚呼、と届かなかった。
置けなかった、物たちが床に並べられてその隙間を舞うように、跳ぶように踊るから、
歌は君の、私の、
手は私と、君を
短く吐かれた台詞と目の前の機械の、長い音。
耳を澄まして、訊く、あの頃の壁には好きな絵葉書にポスターばかり貼られていて、使いたい面積は本当に足りなかった。だから、書きたいことは口にして、訊きたいことは見つめて、あると確かめたいことには、手を当てて。
信じて、本当のように撮り合って、作り合った。
毎朝届く、
紙面の知らせが、
金属音となるのを耳にして。
けれど、最初から限られた紙面に文字を書く、それを読む、君に。それが、そればかりが心から好きで、大好きで、愛していて。
私は。
私には、
伝えたい、
そういうことが
ここにこうして。
こうして、覚めた物から順番よく、けたたましく鳴って始まる私の朝の、右に左にと首を振っても姿を消さない君にかけるものを、水を、毛布を、互いに失えない負担を。大切な事は、声は、私の方から発して表現する。
見えないものがあるなら
見えるように、
訊きたいことがあるなら
答えられるように、
言ってみたいことがあるなら、
その気持ちが整う。
その時に、
蓋をすっかり開けてしまった、好きにも嫌いにもなれるこの、偏った色は部屋の床、寒い朝、裸足で進む、かさかさとした新しい日に使われる。厚紙を手で押さえ、キュッと力強く書き出すその、思いと匂いを見届けて。繋ぎたいから、それでいて、少し笑わせたりもしたいから、思い付くまでの。
短い旅。
「今日、私はペンを持った。」
山折りにした跡が消えない紙の上で待つ、私と君の神様。
どっちがどっちという話ではなく、その日の気分に任せられるように、互いに譲れるものを一つずつ、大切に、保てるよう、用意した。君を紹介するコピー、私のことを知って欲しい文。
「好きにしよう。どうせ、好きになるだけだから」
と納得して蓋をする、素敵な手品とインチキみたいな色の日々が、楽しみで。
「季節の輝きは、降って来ない。
ただ晴れるだけ。」
だから、
そうでない日も来るんだろうね、と
きっとそうなる、
だから思う。
離さないで、
真四角に。
閉じていて、ということを。
POPS