石
石
一
ぎこちない会話を心から楽しめる
だから石の人たちなんだと
あなたが静かに口を割り、
わたしが遅れて微笑んだ。
陶器は乳白色
その胸に
押し付けないよう、
細かく砕き
零れた砂を払う。
水を浴びては色を増し、
流れに任せて
重くならないよう
フォルム。
石のくせに
ガラス張りの食卓は
わたしとあなたの手の中
ゆっくりと手を下ろし
繋ぎ合う。
宵の中、
よく、あっちこっちに打つかって
凹ませる。
溜まらせる。
体温をよく奪うのが冷たさなら
火花散らして向き合おう。
そう口説いた
硬い声に、
しがみついた。
吸い付いた。
模様にわたし、
布に巻かれて、浸されて。
水道水と
シンクが叩く
暗がりに
篭もる卵の新しさ。
あくる日、
果てたみたいに
石みたいに、
泣けないあなたを引っ張って。
石みたいに
佇む、待ち時間に下ろす、
蟻を集める甘いこと。
沢山、ここに積んでいき、
目の前を塞ぐ。
歩き出す、
裏と足。
爪先を
揃えて向ける道すがら。
ここには、
閉ざされたシャッターが錆び
空いたポリバケツが横になる
口を硬く結ばれたゴミ袋の姿。
飲み干された瓶を待つケース
そこを足場にする
もの、
黒いカラス。
こちらは
ぎこちない、鼠と石の組み合わせ。
走らせる、
転がることで、角が取れて
楽しくなるって
あのシンガーソングライター。
パン!
立ち止まる。
眺め合う、
宵の深みが影を増す。
そして、
涙を乾かしたあなただけ
反旗を翻す軋みを聴く。
あの思い出の、
手を重ね
最上階で眺めたイサム・ノグチは、
識らないことの優しさと
風化の意味を唄ってた。
ぎこちない、
文節が吹かれて垂れている。
転がる。
そのうちに
戻って来て、辿り着くベンチに
元々の材質を軋ませながら座るわたし。
あなたが浴びる月光を見ずに、考える。
かちかちと
削られる時間は
冷たい。
反転、
命を取り戻したあなた。
ぼろぼろと
地肌を晒し出す。
反面、
話し出す。
カッターナイフが折れた先から
失っていった
新調された、
ピカピカの
わたしは、優しくありたい。
重く吐く
わたしの未来の一端を
離さない
重みを残した名前のあなた、
削られて
ぎこちないものを正しく、失っていく。
石と石。
アインシュタインが疑問を提示した世界の中で見えているものから交わし合う。
ふたりして、藍色の紐を通したスニーカーを脱いで。
*
「黒い色、綺麗な時間を残してる。結べない、わたしにはあの子たちの瞬きはただの点でしかない。神話の姿は思い浮かばない。」
「自然に隠れていた美しさに加えられる手数は少なく、しかも失敗できない。その美しさが隠れている素材を見つけてくるのにも骨が折れる。正に、原石を見つけることだ。加工という邪魔者をそこに加えることで、自然美の全てが発揮される結果となる素材としての均衡を秘めた原石。それを見極める審美眼はその人の腕そのものだ。知識と経験と感覚の凝縮。石はそうして削られる。」
「未加工を生む。それが奇跡だ。」
「そのための加工。」
「自然に目を向けさせる。自然の良さを評価可能なものにする。」
「それが自然を貶めるものになるのではないかという形而上学的な疑念の足を払うものは何だろうか。答えは造形美だ。」
「いや、直接的な単純化だ。」
「浮き彫りにする。」
「意思の見えない尊崇。」
「祈り。」
「真似はできない。その形は二度と生まれない。意思を残さない意思は、意思のある生き方にその前後を阻まれている。加工、未加工で類推すればその人の一生になるだろう。到達点だ。それらの自然は。」
「石の彫刻は。」
「だから憧れる。」
「頭上を仰ぐ。」
「輝き。」
「点。」
「ボーアと言葉、」
二
蛇口を捻る。
ざーざーと、
流れるもので
お皿を洗う。
冷たい水が注がれる。
わたしはそれを置いて
カゴから、
それを取り出すあなたが拭く、
布巾の色が真っ白で
表を撫でて、
裏を返して
お皿が棚に仕舞われる。
布巾を
あなたがわたしに渡して
わたしがあなたに話しかける。
ぎこちなく
布巾の両面が洗われ、
スムーズに
並べる石が選ばれる。
箸置き、
と述べる。
わたしの後ろを通り過ぎる、
あなたの横姿。
ガラス張りの食卓は
わたしとあなたの手の中。
かちゃかちゃと、
手を加えない葉物を味付ける。
わたしの殻。
あなたのひび。
自然と、声。
優しく。
石