東京の断片 -chapter2- #2
第10話 小銭と夜花
歩いて向かったのは
近所の自動販売機
小銭だけ
ポケットに忍ばせて
落とさないように、無くさないように
それ以上の価値があるように
たどり着いたのは
自分の喉を癒す人工的な灯り
正面には夜花の花壇
安っぽい雰囲気の幸せ
それ以上の価値があるように
何か良いことでもあるかのように
願いを込めた120円
そう、120円の頃があった
視線を落として、足元を見たーー
後ろの正面
夜花の影
私に映し出すスライド式の幻燈ーー
あの頃、好きだった人
こんなことは、二度とない
こんな人には、二度と出会えない
消えてしまった
二度目があると思える?
そんな嘘のようなこと、信じられる?
でも、どうしようもなく引っかかって
抜け出せない
だから、あの人 消えてしまった
もういない
もう現れない
自分に言って聞かせてみた
てもダメだった
だから、あの人 消えてしまった
もういない
もうあの人は現れない
自分に言って聞かせてみた
でも無理だった
あの人に自分の希望を託してしまった
必要な分の幸せを詰め込んで、行った
いつの間にか失ったことが
頭の中で居場所を作り
夜道に顔を出す
本当のことを見つけたい
知りたい
生きていることが
忘れずに
生きていたい
居場所は夜花の中
人工的な安息がいつしか曇り
冷えてゆく身体
信じられることを見つけたい
知りたい
生きていること
忘れずにいたい
生きてきたこと
ここでは見つけられず
帰路に迷う足
仕方なく帰る場所がある
いつもの街灯が照らす
仕方なく帰る場所に導く
繰り返し、繰り返し
いつもの街灯が照らす道
いつの間にか失ったことが
頭の中で居場所を作り
夜道に顔を出す
本当のことを見つけたい
知りたい
生きていることが
忘れずに
生きていたい
小銭の分だけ
ポケットに忍ばせた
落とさないように、無くさないように
今以上の価値が降り注ぐように
東京の断片 -chapter2- #2