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 標本として眠るなら



替えたシーツの上に粗相をする
悪気のない猫の顔。
ちりりん、と首にある鈴と、
後ろ足をあげた格好で露わになる、
おしゃべりな本音。
珍しい三毛の配色を
模写、模写する。
高価な値段を付けてないで、
拾えるものを、
拾ってよ。


良い天気だから、
濃い影。
白色蛍光の只中で
開いた口の、
喉の、
声。


きちんとした服を身に付け、
フローリングの上でスリッパを履き、
綺麗に、綺麗と拭くうちの、
艶めくサビと、コール音。
三番目が忘れたブリーフなら、
きっと昨日に捨てられたわ。
出てきた写真に残る「鈴木君」
忘れた私が悪いのだから、
くしゃくしゃになるぐらい、
元に戻らないくらい、
胸に収めた。
抱き締めた。


恋文折りつつ、
指を切り、
舌を丸めて、
歯を磨いた。
伸びた手足に付いてくる
糸は真っ白、
洗いすぎで、
白いTシャツは
本物かなって。
ルージュはいつでもときめく証、
と書いて消せない。
「眠れる私」。


せがんで
鳴いて。


帰って来て、
たっぷり点ける。
床に広げる断片が
中々、金庫に入らない。
染みて
手にして
単一色の表紙に一編、
言葉を失くして
ひとえに干す。


拭いてくれなくていいし、
舐めてくれなくていい。
頬に残したヨーグルト。
三本髭がチクチクって、
嘘みたい。
優しくって、
アレっぽい。
温かくって、
今朝っぽい。


二人、一人と
折り重なっても
土に埋まれば、その姿勢で、
贈った視線も年月をかけて、骨になるまで分解される。
ポンペイって、
頭に浮かぶ。
お互いを探すように、窪んだ頭蓋に、
「って止めようか。」
ねえ、続けてって言わない?
行こうかって、提案しない?
丸くて白いお皿には、
静かに冷たい、
希望が並ぶ。
だから、あの太陽ばっかりみてないでさ。
神話を蹴って。
戻って来てよ。


好きなもの。
好きだもの。
格好で見える関係を
目指したんだ。
胸を張って言える今日、
好きな角度で固まって、
1%も残さずに
使い切る。
真っ暗な端末画面、
誰の名前も世界は知らない。


呼び出せない。
なら、
イメージして。


三毛の手足に遊ばれる、
毛糸な姿と格好で。



 短歌的思考って貴方が言った



新聞紙から顔を上げた君に言われた通り
私の耳を貸したのだ
何に使うのか、と
聞くのは貸す側に当然許される行為
君は多言で誤魔化し
何一つ、満足な答えを発しなかった
それでも耳を貸したのだ
理由は君が強く望んだから、だ
そうして耳を外したのだ
私のパーツを貸したのだ


歩く度に思うのだ
鼓動の世界が心地良い、と
座る度に感じるのだ
流れる広告の色つやに
惹かれることが多い、と


私たちは作られる
君には分からない気持ちを込めた
このフレーズの冷たさを
私の指が刻むのだ
細かいパーツの機微と
複雑な動き
蛇腹のおもちゃに似ているね、と
犬歯で噛んだ私に差し出す、宵の君の評
はらはらと、風に旗めいた、
短冊


貸した耳から届くのだ
君のバックの中の物がぶつかり
取り出され
戻され
私の耳が使われていないことが
その理由が思い付かず
君が借りたいと言った理由を
他の人から訊かれても、説明できず
指で叩く木のテーブル。
小気味好い、と
咥えられる。
私の胃酸が波を打つ


聞こえる
貴方が言ったのだ、と
戻って来る
私が言ったのか、と


テレパシーという通信を使える私にこそ
要求できた、ことだろう
スペアもあることだ
オイルを差して滑らかに、滑る地面を走る
跳び越えて余る字が揉まれ
直接には届かない
君に貸して、戻って来ない、
返してもらえない、耳にかけた、
生温いお湯でショートする不具合など
気にしない君は語りかける
世界の中程で
歌われる
庭に刺さった
あの言葉。


思うのだ
鼓動の世界が心地良い、と。
感じるのだ
歯形が並ぶ
世界の決まりを


目が覚めた、と書けば始まる
新聞紙から顔を上げた私に君が言った通り、
耳がキャッチした
思考の中断の隙間に挟まる
私を表す
小気味好く
刻まれて
ひらひらと、
舞い上がる。


あい、合い。
取り。
目で追う、のみ。



 大陸間、銀河



川の向こうにある街で
終わりから来たという人は
最初から、一冊を
絶やさなかった顔で
固定し続けた
微笑みを浮かべた、嘘のために
時間旅行の唄を数えた
足元をふらつかせず
未来を置いて
世界を回す
今を巻く


止まるまで
終わりを語っていた
風に捲れた
みずから離れた
(探偵は、)
動かない、橋の中程で
仕掛けられた何光年に
老いた僕らの始まりを見た
「君」だけが旅を語り
マゼランの音楽を聴いた、と
「君」が熱く語った
『僕はマゼランと旅した』



順番に並んで買ったのは
ハードカバーを拒絶して、
文庫を探した暑い一日。
溶けた氷が消えた理由に
オレンジパックの畳み方は
見事に忘れた、過去において
人が、終わりから来たと言い
何光年という距離を知った。
そして渡った橋の向こう、
アイスを売っているコンビニで
待ち合わせた天文学者が、
卵のパックを割らないように
合図ができない視線を送り
向こうの街から歩いて来た、「僕」は
広い世界を
受け止めきれない。


深い刻、
声を絞った、
思いから
拙い結論、踏みにじり
投げられた。
匙の数だけ
煌めいて
噛み締めて、
オールの片方を老いた僕らで
運び込んだ。
折れることなく、
朽ちることなく。
河に浮かんだ。
旅をした。


終わりから来たという人に
枯れた眼(まなこ)を差し上げ
涙に溺れた言葉など
凝った機械で
打ち上げた。


始まりに戻ると言った君に
僕、と名乗った時間を過ごした
音楽みたいな小説と
水面に漂う、
これらの連なり。
始まりに戻ると言ったなら、
それをゆっくり替えに行こう。


橋の向こうにある街。
見上げる向こうにある日々。
陸に上がって、遠ざかろう。
砂を落として、憧れよう。


大陸間、打つ点と。
ヘルメットを目立たせる落書きを。

形式

形式

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-01-28

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